第10回ラブタメ大賞一次通過作品【7】

『孤独な青月』/大橋莉子

あらすじ&選評

留学先のニューヨークで、たった一通のメールに返信したことがきっかけで世界的テロ組織“アンチフォース”の一員としてFBIや日本政府に追われる身となった鈴原茉夏は――。

ニューヨーク、フィラデルフィア、南アフリカ、そして日本を舞台に、一人の女子大生が陰謀に巻き込まれていくという壮大な物語ではあるのですが、残酷さや重苦しさはなく、軽妙な筆致で描き切ったのがよかったです。日本の政治家の陰謀を暴くために殺された父を持つデルタなど、それぞれに傷ついた過去を持つアンチフォースのメンバーと行動をともにして彼らを知るほど友情や愛が芽生えていく。セリフも場面転換もメリハリが利いていて、読みやすかったです。政府による個人情報収集の手口や茉夏のハッキング方法など、さらに踏み込んだ記述があるとよりリアリティを感じられたとは思いました。情報収集に関わる組織や人工知能の問題など、最先端の犯罪について挑む意欲作。作者の可能性を高く評価します。