第10回ラブタメ大賞一次通過作品【5】
『天の川を越える』/森本和音
あらすじ&選評
事故で両親を亡くした瑞希は、叔父が大神神社の神主を務める天野川村に越してきた。瑞希は村の高校に通い始めた初日から、梁瀬という男子のことが気になり始める。瑞希は幼い頃から人の心を読む能力を持つが、梁瀬の心だけは覗けないからだ。やがて、梁瀬にも瑞希と同様の能力があると分かる。瑞希が高校生活に馴染んできた矢先、資産家夫婦の遺体が神社の杜でみつかった。その事件が解決しないまま、今度は同級生の真美が何者かに殺される。村人たちは、事件は神社の大神様の怒りだと思い込んでいる。騒ぎの中、瑞希は透視能力で同級生殺害事件の真相を知り、犯人に殺されかかる。危ないところを梁瀬に助けられるが、なぜ梁瀬はその場にいたのか。やがて瑞希は、梁瀬の謎の行動の理由とそれに関係する自分自身の重大な事実を知ることになる。
読み始めた冒頭からすぐに、「この作品はいける」と確信しました。野生の鹿や川に沿って走る急な山道、濃い山の空気。瑞希が越してきた村の風景が、目の前にイキイキと広がってくるのです。つまり、風景描写、情景描写が抜群に巧い。瑞希が透視能力を持っているということで、瑞希だけでなく転校生を迎える側の複雑な気持ちも存分に描かれています。瑞希と梁瀬との出会いやその後のやりとりにも緊迫感が溢れていて、心理描写もプロ並みだと思いました。瑞希の頭の中に、クラスメートの考えていることや会ったこともない女性の死に顔が浮かぶシーンも非常にリアル。ディティールがしっかり描かれているので、透視能力や神社の杜に死後の世界と現世とを結ぶ裂け目があるという言い伝えも、いかにも実際にありそうに思えてきます。構成も優れていて、クライマックスの冒険シーンに向けて物語がダイナミックに展開しています。エンターテイメントな作品として評価に値する出来だと思います。