- 『針槐(ハリエンジュ)』 藤原 あずみ
- あらすじ
- 陶芸家の仁科サチの夫、孝之は白馬岳で滑落事故に遭い新婚3カ月で植物人間となった。事故当時、すでに身ごもっていたサチは娘の彩を産むが、義母が彩を溺愛。サチは妻としても母としても婚家に居場所がなく、逃げるように陶芸家としての自立を目指していた。
- そんななか、念願の個展の会場で信濃日報の記者、楢原将太と出逢う。がさつで遠慮のない物言いの楢原にサチは反発を覚えるが、偶然再会した碌山美術館で「愛の3部作」について会話を交わすうち、サチは女の身の内に潜む夜叉に気づかされる。次第に楢原に惹かれるサチ。ある日、サチが絵を教えている園児が一家心中で命を落とす。動転したサチは楢原を呼び出し、その夜、ふたりは結ばれる。後日、楢原の書いた心中事件の記事を読んだサチは母親としての自覚に目覚め、初めて義母に逆らい娘の彩を孝之に対面させる。その直後に救命チューブが外れる事故で孝之は急死。孝之が自分で抜いたのか、病院側の過失か、それとも…。孝之の死は意外な真実をもたらし、楢原への愛を封印しようとするサチの心は揺れる。
- 評価・感想
- 文章の完成度がとても高く、冒頭の仁科サチの子ども時代のエピソードからぐいぐい物語に引き込まれます。色や風景の描写も美しく、印象的です。教え子の死はサチが「母」の自覚を持つきっかけになっているので、娘の彩とのエピソードを前半でしっかり読みたいと思いました。
- 残念なのはサチと楢原のキャラクター設定に時代の古さを感じさせること。また、脇役である般若良二の外見や生い立ちが具体的に書かれているのに対して、サチの情報が乏しく、人物としての印象が薄くなってしまったことです。
- 孝之の死をきっかけに登場人物たちの溜めていた思いが一気に高まり、それぞれ浄化されていく描写は秀逸。