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- 『禽獣』 藤宮 彩貴
- あらすじ
- 新撰組局長・近藤勇の妾ながら、副長の土方歳三に片思いをしてしまった、おこう。近藤は実直でやさしい。しかし土方は、あまりに美しい。おのれの気持ちを抑えきれず土方に想いを告げてしまうおこうであったが、土方は取り合わない。新撰組を守るために、近藤の女にだけは手をつけないと心に誓っていたからだ。
つれない土方への熱い想いを焦がしながら悶々としていたある日、おこうのもとを姉の深雪がお忍びで訪れる。じつは深雪こそ、近藤が見初めて身請けしようとした女だった。しかしなぜか、姿形のそっくりなおこうが、深雪の身代わりとして近藤の妾となっていたのだ。深雪の訪問を目撃した土方は、おこうを問いつめ、この替え玉事件の裏側で新撰組参謀・伊藤甲子太郎が暗躍していることを知る。
おこうを利用して、この反乱分子、伊藤を始末することはできないか?ある計画を思いついた土方は、おこうに甘い言葉をささやき意のままに操ろうとする――。
- 評価・感想
- 主人公のおこうは、近藤に囲われた妾の身。いわばかごのなかの鳥です。そんなおこうが、決して愛してはいけない土方を愛してしまったがゆえに、まるで「禽獣」のようにもてあそばれていく。いけないとは知りながら愛のために堕ちていくおこうの悲劇を、見事に描ききっています。
なんといっても文章がすばらしいです。地の文と会話のバランス、手際の良い時代背景の説明、行間にかすかに漂う哀しい余韻。最初の一文から結びの一文まで一気に読ませるこの筆力は、すでにプロの域に達していると思います。
物語の運びもとてもスムーズで、わくわくしながら読了することができました。土方に殉じて最後まで堕ちきることなく、本当に大切なものにおこうが気づく終盤の展開も見事。しかも、それが決してハッピーエンドではないというところもすばらしい。
文章力、構成力、どれをとっても見事な作品でした。