• 『おたまじゃくし』 本間 野乃
  • あらすじ
  • クリスマスの夜、11歳と12歳の姉弟が、母の恋人に突然引き合わされる。朴訥とした風変わりな男を激しく嫌う姉と、いやいやながらも拒否しない弟。しかし男は、突然、3人の前から姿を消してしまう……。お気楽な母、仕事一筋の冴えない実父、豪快な祖父、変人だけどなぜか人をひきつける母の恋人と、その家族。さまざまな人たちと触れ合いながら、何度も傷つき、姉弟は少しずつ大人になっていく。夫婦、恋人、きょうだい、親子……さまざまな関係で2年間のあいだに起こる、切ない気持ちのすれ違いを描いたホームドラマ。
  • 評価・感想
  • まずは、ずば抜けた構成力に脱帽しました。この小説はショートストーリーで構成されているのですが、姉、弟、母の恋人……と、ストーリーごとに主人公が変わる。まるでお菓子のミルフィーユのように小さなストーリーが積み重なって、ひとつのお話ができあがっていくわけです。そういった手法を使う場合、軸がぶれて読みにくかったり、読んでいるうちに誰の話なのか、もしくはいつの話なのか混乱してしまったりすることが多いのですが、この小説は主人公が変わっても読みにくさや違和感がまったくないのが見事。

    そして表現力。エピソードそのものは、どれをとっても読み手の意表を突くようなものではない。普通ならこれで読み手をひきつけるのは難しいところだと思う。でも、読んでいるうちに、じわじわ効いていつしか温かいもので満たされていく。とにかく、じんとくるのだ。微妙な心の動きを感知する鋭いセンサーを持っていないと、なせるワザではない。作者の感受性、洞察力、そしてそれを繊細に表現できる文章力を高く評価したい。

    また、登場するキャラクターそれぞれが魅力的で、どの人が主人公になってもおかしくないくらい、いい味を出している。思わず読んでいる途中で、作者の年齢を見た。48歳。きっと素敵な年の取り方をしてきた人なのだろう。

 
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