• 『私の願いの向こう側』 小湊 さよこ
  • 選評
  • 誕生日の直前に彼氏に振られ、派遣の仕事も打ち切りを宣告された美紀子のもとに、手足のついた卵形のクッションのような生命体が送られてきます。都会の片隅で質素に暮らしていた美紀子と、「まごへい」と名付けられたその謎の生命体との共同生活を描いた良質の大人のメルヘン。まごへいはドラえもんみたいに願いを叶えてくれるわけでもなく、世話が焼けるだけなのに、やがて美紀子は無償の愛を感じていく、そのプロセスがコミカルに描かれています。そして、唐突に訪れるあっけない別離、泣きました。

    文章も達者です。ユーモラスな文体のおかげで、超自然的な設定も読んでいるうちに馴染んでくる不思議な説得力があります。共感する読者はきっと多いでしょう。選者も読んでいて心が癒されました。ただし、残念ながらこの作品の主たるテーマは、人間的な愛への気づきであって、本賞が期待している恋愛小説ではありません。作品としての完成度が高いうえに、まごへいがとても可愛くて本当に惜しいのですが……。

 
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