• 『どぶねずみが見た空』 村岡 直樹
  • 選評
  • 村岡さんの作品を読んだのは、第三回に応募いただいた『恋路線』以来ですが、あいかわらず山場に富んだストーリー展開で、読者を楽しませようとするエンターテインメント精神には頭が下がりました。筆力、描写力もそうとうなもので、小説を心から愛する方なのだと認めざるを得ません。しかし、これは『恋路線』と同じ感想になってしまいますが、小説の筋立て(プロット)を重視する反面、登場人物の心理や行動に違和感を覚える場面が多すぎるのです。しかも今回は、ストリートチルドレンという異常な設定を立てただけに、前作以上の無理を感じてしまいました。おそらく村岡さんは、最初にプロットを考えて、それに忠実に書き進めるタイプの作家だと思います。が、プロットを進めることに集中するあまり、場面場面で登場人物の心理や行動原理がおろそかになっている印象を強く受けます。読者は、「えっ、このシチュエーションでこの人物は、こんな感情は抱かないだろう。こんな行動は起こさないだろう」と、感じてしまうのです。それは、前作の『恋路線』においても、多くの選考委員が指摘したことでした。いっそのこと、プロットをあらかじめ立てず、登場人物の心理を意識した、説得力のある場面づくりに徹する創作法をおすすめしたいところですが、いかがでしょうか。普通、新人作家には「キチンとプロットを作りましょう」とアドバイスすることが多いのですが、村岡さんに限っては、まったく逆のことをアドバイスしたくなってしまいます。ともあれ、この筆力はとても惜しいと思います。
 
一覧へ戻る
このページ先頭へ戻る