あと一歩【1】

夏を抱きしめて/伊藤綾子

地方局のアナウンサーを経て東京でフリーアナウンサーとして活躍する咲は、祖母の死の報せを聞いて、故郷である秋田県西馬音内(にしもない)に向かう。通夜、葬式などをすませて遺品整理をしているとき、祖母の部屋から箱に収められた数多くの手紙を発見する。手紙はすべて投函されず、どれも同じ男性に宛てて封がされていた。果たして祖母は、どんな相手に向けて手紙を書いていたのだろうか?──という謎を解くとともに、物語は高校2年生の夏に祖母とふたりきりで過ごした思い出、そして地方局を退職して上京してからの恋愛遍歴を丁寧にたどっていく。祖母の手紙の真相を知った咲は、自分の人生に「覚悟」を持って生きていくことを決意する。

起承転結がしっかりと描かれており、破綻なく物語が構成されています。安心して読み進められるほどの筆力もあるため、一見弱点がないように感じられます。しかし、良い意味でも悪い意味でも「普通」という意見が多く集まりました。「ここは」という決定打に欠ける点は少々残念。風景描写や語りの清涼感は作者オリジナルの魅力であるので、それを生かしてダイナミックなストーリー展開・キャラクター設定を次回作に期待します。