あと一歩【12】

Uncountable/細井麻奈美

あらすじ&選評

小学四年生の夏。恭子はやんちゃな転校生、正人に出会う。家庭環境は複雑なようだが、明るく気の合う正人に信頼を置く恭子。しかし、家庭の事情で正人は翌年転校してしまう。   その後、恭子が高校生のとき、正人は恭子の街に戻ってきた。部活の先輩との恋愛や父親の不倫などで悩んでいた恭子を、正人は優しく助けてくれるが――。

10代の恭子と正人の関係を中心に話は展開しますが、それ以上に恭子の周りの登場人物の“病んでる感”が痛々しくも魅力的な作品。一見普通の専業主婦に見える恭子の母親をはじめ、クラスメイトの井上さんの正義感、家が裕福で育ちのいい春香のその後など、それぞれがある意味“ちょっとズレた”道を進んでいて、そういった人物たち生きづらさを上手に表現できている部分に、著者の人間観察眼のようなものを強く感じました。ただ、若い主人公のストーリーを大人のエンターテインメントに仕上げる技量はあと一つというところでした。次回作に期待します。