あと一歩【5】
雪のように舞う桜の中で/穂波杏奈
あらすじ&選評
平安王朝の貴族社会を背景に軽快なテンポで語られるファンタジー。貧乏公家の一人娘・珠子は、父亡き後ただ一人忠実に使えてくれた侍女にも死なれて茫然としていた。そこに宮中に権勢をほこる左大臣家の貴公子・惇長が現われて、珠子をさらうように連れ出し、一年間の契約結婚を申し入れる。惇長の強引な申し出を、生きるためと割り切って受け入れた珠子だが、夫となったはずの惇長は安倍晴明の孫だという陰陽師の彰親と何やら怪しげな企みをしている様子。
ちょっとやんちゃな姫・珠子の運命やいかに、という感じの楽しいストーリーで、次から次へとコミカルな事件が起きるので読者を飽きさせません。セリフは現代風、人物もほとんどが架空なのに、当時の衣装や行事などの細部の描写がしっかりしているため、なんとなく平安時代の感じがするという説得力が生まれています。ただ、情景や出来事をセリフで説明している箇所がちょっと多いような印象があります。地の文章の大切さをもう一度見直して、次回作を生み出してみてください。期待しています。