あと一歩【4】

優しい陽射し/那古智洋

あらすじ&選評

朝の通勤電車に乗り合わせた三人、IT企業に勤める長瀬、その長瀬をXマンと呼んで憧れる女子高生の加奈子、そして、「どいてー」と言いながら電車内を往復する「どいて兄ちゃん」、はひょんなことから知り合い、実はエリート証券マンだった「どいて兄ちゃん」の行方不明になっていた娘探しに協力する。謎解きと恋のゆくえを、それぞれの職場や家庭の事情をまじえ語りながら大団円に結びつける構成は見事です。

ただ、長瀬と加奈子についてはそれぞれ一人称視点で語り、「どいて兄ちゃん」だけ三人称視点というのはバランスに欠ける印象があります。また、三人以外にも個性のある人物が何人も登場しますが、すでに三人三様の物語が微妙にかかわりながら進行しているので、これ以上サブストーリーが増えるのは読み手に取って煩雑になります。文章力があるからこそ、あれもこれも書き込みたいと思うのは当然でしょうが、テーマにそって描写も絞り込んでみたらどうかと思います。次回作に期待します。