あと一歩【3】

23番目のアルカナ/藤ノ木陵

あらすじ&選評

絵本作家を目指す26歳の米子(よねこ)は、横浜のカフェで働いている。「期待も予想も裏切らない」善良な店長・滝川に想いを寄せられているが、決め手になるものがなく、付き合うには至っていない。夢にも遠く、冴えない毎日を送っていたあるとき、顔がタイプの占い師・ベランメール輝彦と出会い、彼と、彼のタロットに夢中になる。が、じつは彼、米子の幼なじみにして初恋の相手・高雄だった――。そうとは知らない米子は、高雄に誘われ、カルトまがいの恋愛合宿に参加することになる。

運命的に出会ったイケメンがじつは幼じみだったという、少女漫画的ベタな設定。しかもその事実が明かされるタイミングも「え、そこ?」という感じ。せっかくならば終盤まで引っ張って物語を盛り上げてもよかったのではないでしょうか? また、米子の魅力が描き切れていないので、高雄や滝川は彼女のどこに惹かれているんだろうと疑問に思ってしまいました。タイトルの「アルカナ」はタロット用語であり、高雄が占い師ということでタロットカードが物語のキーアイテムになっているが、必然性がないというか、生かしきれていない感じも否めませんでした。一方で、筆致は安定していて、読みやすさは抜群。非常に書き慣れている書き手だと思います。「どこかで読んだことがある……」という設定を外し、オリジナリティの高い物語を書く訓練をしてほしいと思います。