第10回ラブタメ大賞一次通過作品【15】

『雪どけはくるか』/茂田井昇

あらすじ&選評

山梨県に住むライターの寺井雄大は、ある晩妻と激しい口論をして、その翌日、妻の桔香は娘の桃代を無断で連れて出て行ってしまう。妻が警察に対し夫に暴力をふるわれたと主張したため、妻と娘はどこかにあるDVシェルターに入所し、連絡を断ってしまう。一方的に加害者だと決めつけられ娘を奪われた寺井は途方にくれるが、同様の境遇に置かれて苦しんでいる男たちとブログを通じて情報交換し、娘の奪還を誓う―ー。

DV冤罪という社会問題を取り扱った作品は、これまでの応募全体の中でも珍しく、それだけで惹きつけられる要素となりました。同じ立場の男たちがネットを介して通じ合い、実子への愛情や、妻への憎悪、被害妄想までも膨らませながらストーリーが展開していく様子は、スピーディーでありながらも丁寧で、意外なほどに共感できました。主人公が男たちであることや、少し過度に感じるほど荒々しい表現を含むことを加味しても、これは立派な家族小説と言えるます。そういう意味でも、今回の大賞の趣旨に合致しているでしょう。文章力・構成力ともに申し分なく、すんなり通過としました。