第10回ラブタメ大賞一次通過作品【14】

『時間の断層 タワー・ハートノート&マジック』/亜月文具

あらすじ&選評

新興住宅地で子育てに励む夫婦、小さな文具メーカーを営む独身男性、大学マジック部の学生と若きシングルマザー。一見のなんのつながりもなさそうな3つの物語が、ある悲劇的な一点に向かって収斂していく。

奥田英朗さんの『最悪』を思わせるような、全編に漂う不穏な空気にひかれました。3つの物語を淡々と積み重ねていく前半はとくに見事。なにも起きていないのに、なにか起きそうな予感だけが物語の底にうごめいています。それだけに、後半の急展開はもったいなかったです。物語を収斂させることに意識が行き過ぎていて、エピソードの描き込み不足が目立ちました。また、児童虐待や育児放棄を物語収斂のカギとして安易に使いすぎている点がとても気になりました。参考文献を物語に引き写した感は否めません。もうすこし作者独自の視点を持って、そうした社会問題を扱ってほしかったです。しかしながら、改稿で仕上がったものをもう一度読んでみたいと思えたため、通過としました。