第10回ラブタメ大賞一次通過作品【3】

『夏を抱きしめて』/伊藤綾子

あらすじ&選評

地方局のアナウンサーを経て東京でフリーアナウンサーとして活躍する咲は、祖母の死の報せを聞いて、故郷である秋田県西馬音内(にしもない)に向かう。通夜、葬式などをすませて遺品整理をしているとき、祖母の部屋から箱に収められた数多くの手紙を発見する。手紙はすべて投函されず、どれも同じ男性に宛てて封がされていた。果たして祖母は、どんな相手に向けて手紙を書いていたのだろうか?──という謎を解くとともに、物語は高校2年生の夏に祖母とふたりきりで過ごした思い出、そして地方局を退職して上京してからの恋愛遍歴を丁寧にたどっていく。祖母の手紙の真相を知った咲は、自分の人生に「覚悟」を持って生きていくことを決意する。

とてもよくできた小説という印象を受けました。高校生の咲と、フリーアナウンサーとなって東京で生きる咲のふたつの生活が交互に語られ、双方で語られる恋のいきさつにハラハラドキドキさせられます。ふたつのエピソードはまったく関連がないように進行していきますが、それぞれのパズルが結末でピッタリはまる。「うまい!」と膝を打ってしまいました。