第10回ラブタメ大賞一次通過作品【1】

『五色の石と、片袖の侍』/いちか

 あらすじ&選評

心にある傷を抱え、生きる気力を失っていた大野椎奈は、ある日通勤途中に大型トラックに撥ねられる。目を覚ますと森に横たわっており、突然現れた三人組の男に襲われてしまう。間一髪、侍姿の男、涼に助けられた椎奈は、その森が、現実世界で意識不明となり、生死をさまよう人がやってくるパラレルワールドだと知る。生還するためには、自分の額に埋め込まれている同じ色の「石」を集める必要があり、元の世界に戻った時には、森での記憶は全て失われるという。椎奈は不思議な森と石の仕組みにすぐに魅せられた。涼も属している「村」での生活を始めた椎奈は、様々な人々との出会い、出来事を経験する。そして次第に心の傷を乗り越え、涼と愛し合うようになる。やがて二人は生還の時を迎えるが…。

 映像化されたら面白そうなエンターテイメント性の高い作品です。この世界観の中でリアリティのある巧みな人物描写、また先が読めない展開に一気に読み終えてしまいました。生還するために必要な「石」や無駄な殺戮が起こらないように形成された「村」の仕組みもよく考えられていて感心しました。ただ、涼と椎奈の出会いから結ばれるまでの展開に起伏が乏しく盛り上がりに欠ける点、また現在に戻ったラストはもう一捻り欲しかった点において物足りなさを感じました。ラストは、『元の世界に戻り再び恋に落ちる』だけではありきたりなので、例えば、森での経験を経て違った現在に戻ってしまうといった「JIN-仁-」的な展開など、パラレルワールドという設定上、色々と考えられそうです。