第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(11)

ベーカリーオーマミューダ/宮本奈々

製パン技師の小玻璃(こはり)は、パンを愛するあまり、パンを粗末にした客と喧嘩して勤め先のホテルのパン製造部門を辞めてしまった。実家では父が事業に失敗して工場をたたみ、家も抵当に入れられてしまったという。亡き母の部屋で謎の登記簿を発見した小玻璃は、確認のためその登記簿の土地、北海道の日礼町に向かう。そこはほとんど価値のない原野商法の地だったが、その土地には果樹園を営む黒づくめの大男・大豆生田(おおまみゅうだ)が住んでいた。家もなく行きどころのない小玻璃は、住み込みで果樹園の果物を使ったベーカリーをオープンさせることを思いつく。人付き合いが悪い大豆生田だったが、小玻璃との奇妙な共同生活を続けるうちに、その頑なな心がほどけはじめて……。

方言が読みやすく、会話もイキイキしていて、清々しい世界観が描けているという点について高い評価が集まりました。北海道の情景やパン作りの描写も巧みで、大らかで伸びやかな作品、と、小説の持つ雰囲気には肯定的な意見が出ました。

反面、「見知らぬ男女の奇妙な共同生活」というラブコメの王道のテーマにおいて、いがみ合っていた二人が接近するポイント、脇役の介入の方法、二人が乗り越えなければいけない共通のミッションとは何か、等、押さえておきたいポイントがきちんと描き切れていないという厳しい指摘もあり、残念ながら通過には至りませんでした。

しかしながら21歳の若さでこのレベルの作品を書けるのは、充分に書く力を持っていると思われますので、プロットをきちんと構築し、説明部分を刈り込む力をつければ、さらなるよい作品が描けることでしょう。