第9回日本ラブストーリー大賞 1次選考あと一歩の作品(9)

『健やかなる時も病める時も、笑美香が笑顔じゃない時も』/鈴木 チヒロ 

 あらすじ&コメント

幼いころ、イジメの苦しみから逃れるため、アニメの主人公を崇拝した大悟のねじ曲がりぶりが楽しい。彼は匂いフェチに加えて、対象をなめ回すことで愛情を確認する異常性欲者だ。それは明らかにゆがんだ愛情なのだが、彼は笑美香という生身の女性を愛することでそれを克服し、成長する。笑いのなかに、人を愛するということはどういうことなのかを洞察する試みが感じられて、面白く読めた。

残念なのは、その試みが必ずしも成功しているとは言えないことだ。大悟は、笑美香の体臭がときには臭くなるという事実のみを受け入れただけで、二次元ではない、生身の女性を真の意味で受け入れたようには見えない。また、笑美香は大悟のことをバイト先の頼れる先輩として見ているだけで、オタクで異常性欲者だった過去の大悟を知らないまま物語は終わってしまう。大悟の痛い愛情が、真の力強い愛情に変わる様子を効果的に、感動的に語ってほしかった。

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