第9回日本ラブストーリー大賞1次通過作品(9)
『きみは消えない』/反町 由美
あらすじ
大学生の魚住高久は、ある夜、家に侵入してきた少年・暁の複雑な事情を知って、同居人として迎え入れる。高久が身元を調べると、じつは暁は少女で、幼少期に母と離婚した父親から性的虐待を受け続けたことによって多重人格に陥り、母親と一緒に暮らし、その愛人に殺された双子の兄、暁の人格を作り出しているとわかる。
高久は小学校二年生のときに、やはり父親から性的虐待を受けていた幼馴染みを見殺しにしてしまったという自責の念を持ち続けていた。彼女を母親を探し出して殺すことを生きる糧にしている暁を名乗る少女に重ねた高久は、何とか復讐を留まらせようとする。だが、肝心の主人格は眠ったままで、別の人格の水月という女性が現れる。水月は主人格を救って欲しいと願いながら、高久と惹かれ合ってしまう。
そのころ、暁は母親を発見して復讐しようとするが、高久が自身のすべてをかけて止めたことで、ついに主人格の灯(あかり)が目覚める。
評価・感想
幼少時の性的虐待、暴力による虐待、多重人格という小説にはありがちな、しかし、難しいテーマを非常にうまく描いている。
過去の自責の念にとらわれていた高久がすべてを賭けて暁に向き合うことで、主人格の灯が目覚めると同時に、高久自身も過去を乗り越える成長物語になっていて、読後感がいいこともポイントが高い。