第一次選考あと一歩作品

『悠有子、皇帝の娘』 森平京


選評

 1000万円の貯金を持ちながらも、メキシコでは日系企業の現地採用枠で薄給で働くヒロイン悠有子が、「自分の大叔父は天皇である」という秘密をかかえながら、メキシコ人たちとの交流を通じて虚栄心を満たそうとする話。メキシコ社会の描写や、ヒロインの心の動きなどが丁寧な筆致で描かれ、最後までイッキに読ませる筆力に感心した。だが、他人の収入や社会的地位などに固執するヒロインの性格が厭味で、最後まで一歩も成長していないところが難点ともいえる。ヒロインがなぜそのようなふるまいをするのかは最後で明かされるが、前半か中盤あたりに持っていって、善と悪、富と貧困に揺れる人間像を作れたのではないか。それが非常に残念。

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