第一次選考あと一歩作品

『道行き、なう』 橋本みなみ


選評

 派遣切りされて職を失った挙げ句、避妊に失敗した世津とトモは、京都の天ヶ瀬ダムに身投げすることにする。だが、ダムの自殺防止対策によってふたりは心中を断念する……。
 心中の動機を「空が青いから」とうそぶいたり、京都への道行きをTwitterにつぶやいたり、リチャード・ブローティガンの『愛のゆくえ』を思わせるトボけたストーリーが魅力的。ところが、中盤から幼児虐待、DV、親殺しといったドロドロした重いエピソードが明かされるに至って、物語のムードが一変していくのに違和感を感じた。逃げ場を求めて右往左往するふたりの痛々しい心情を描きたいならば、ふたりの行動は意味や説得力に欠け、ストーリー展開にも謎が多すぎる。ファンタジーではなく、リアリズムに徹した描写が必要だったのではなかろうか。ラスト、トモの親殺しを示唆したDMの送り主は誰だったのか? 逃避行の道中、なぜトモはその秘密を世津にずっと隠し続けたのか? なぜふたりは心中を断念したのか? そうした数々のモヤモヤが残って、エピローグの「救い」に納得感がなかったのが残念。

一覧に戻る