第一次選考あと一歩作品

『蝶の枷』 根本 彩


選評

 物語の舞台は、幕末の吉原。御家人の夏目琳太郎は町家の娘を浪人から助けようとして隻腕になった。琳太郎の母は、実の父親に騙されて吉原に売られ、大黒屋孫兵衛の妾として暮らしていたが自害する。一方、遊女の蝶瑠璃は国学者の父に尊攘運動資金を作るために吉原に売られ、琳太郎の母の亡き後に大黒屋孫兵衛の妾となる。吉原で出会い、不思議な縁で心を通わせ合っていく琳太郎と蝶瑠璃だったが……。
 幕末の江戸の風俗や吉原のしきたり、遊女たちの苦難が事細かに書かれていました。豊富な知識と巧みな文章で物語として美しくまとまっている作品です。
 登場人物それぞれが多難な人生を強いられ、降りかかる数々の不幸な出来事が羅列されているのですが、彼らの性格や心の動きが伝わりにくい点が気になりました。膨大な資料をひとつの物語のなかに盛り込み、緻密な筆致で書き上げているのはすばらしいのですが、説明部分をもう少しカットして、キャラクターの魅力を伝えてほしいと思いました。
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