第一次選考あと一歩作品

『おとぎ話はシズクにて』 吉岡 智彦


選評

 智樹と理緒の初めての出会いは12歳のとき。智樹はその日から理緒を「シズク公園」で待ち続けた。7年後に2度目の出会いを果たし,彼らは結婚する。幸せな生活を送っていたふたりだったが、理緒は智樹にまつわる出来事の記憶を失い始める。智樹の記憶を失った理緒は彼のもとから去ったが、智樹は3度目の出会いを信じて「シズク公園」で理緒を待つ……。
 思い思われて結ばれたふたりが愛し合う描写や、結末が冒頭につながっていたと気づかされる構成がすばらしい作品。しかし、互いがともにした時間のかけがえのなさがさまざまな比喩や修辞で表現されているのはよいが、ときにそれは冗長なものとなっていた。結末までを我慢して読まなくてはならなかったと読み手に感じさせないように、もう少し削ぎ落とした構成が欲しい作品であった。
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