第一次選考あと一歩作品

『笑って』 村山小弓


選評

 せっかく独自の文体と作品世界を持っているのに、ところどころにある仕上げの粗さが目について作品の魅力を半減させてしまっています。舞台は甲州街道沿いのさびれかかった商店街。各商店の20歳になる跡取り息子・娘たちが主人公。年にいちど、20歳の青年男女が笑い声を競う「笑福祭り」の直前、主人公たちに怪しげなメールが届く、というミステリアスな導入で読者を引きつけつつも、けれんに走らず、平々凡々な青年たちの心のひだをていねいな表現で語ってみせるのが、この作品のあるべき姿だったはずではありませんか。ところが、作品中で剣道の「残心」という言葉がキーワードになっていましたが、まさにその「残心」が足りません。あわてて書き上げたような粗っぽさが目立ちます。
 表現力といい、人間性への洞察といい、日常のささやかな場面にドラマの芽を見いだす観察力といい、実力のある書き手と察せられるだけに、せめてもういちど推敲してから出されればよかったものを、と惜しまれてなりません。本当に残念です。
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