第一次選考あと一歩作品

『夜空を翔る』 春原希未子


選評

 昭和18年、陸軍飛行学校の生徒である慎太郎は、出征前に事故死してしまうが、彼が飼っていた狸のポン太が身代わりとなって戦地へ行き、夜目の利く名飛行士として死闘を繰り広げる……。
 骨太の戦記ものだが、ヒロイン時子が飛行学校の教官で、飛行士として出征するなど、史実とかけ離れている設定がかなり多くあり、とても残念。フィクションという前提において、ある程度の史実の改ざんは許されるが、その許容範囲を大きく超えてしまった。ポン太が慎太郎に化けていることがバレそうになったりする山場の作り方など、小説の作り方がうまいだけに惜しい。「昭和18年」という設定ではなく、「近未来」とか、「何処の遠方」といったファンタジー的な設定にしたほうがよかったはず。「第二次世界大戦」という題材を生かし切れなかった作品という印象を受けた。プロの作家は同じような題材を選ぶ場合、膨大な文献を読んだり、当事者に取材したりする労力を惜しまない。そうしたプロの作家たちと戦う新人作家のむずかしさが露呈してしまった。
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