第一次選考あと一歩作品

『物語の始まり』 羽村理沙


選評

 自殺未遂をした過去がある高校3年生の七海は、そのとき助けてくれた謎の男の存在を心の支えに生きていた。あるとき、謎の男にそっくりな教師・藤村が高校に赴任してくる。ゆっくり芽生えていく恋心。でも、藤村に「知らない」と突き放され、傷ついた七海はクラスメイトの河野と付き合い始める。が、河野は高慢で自分勝手な男。好きでもない河野と関係との関係はつらいだけだった。さらに藤村も同僚の女教師と付き合い始め、七海はますます絶望していく。果たして七海の恋の行方は……。
 先生と生徒の恋。テーマがありきたりすぎるし、自殺未遂したこともある七海の苦悩が伝わってこないのが残念。けれど、情景や心情描写がうまく、ときどきハッとさせられる美しい表現があった。文章は未完成で垢抜けないし、ストーリーも予定調和だが、物語にたゆたう「切なさ」が魅力的だった。

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