第一次選考あと一歩作品

『ピジョンミルク』 小夜時雨


選評

 付き合っていた薬物中毒者の男に自殺されたのち、薬物中毒者にしか興味がなくなってしまった女性と、その周囲の人々の歪んだ愛情を描いた作品。
 昨年、『さよならアンドロ』で最終選考に残った著者だけあり、文章力は高いです。全体の作品のトーンが“負”の方向に統一されている点も評価できます。
 ただ、セックス描写やジャンキーの勝手な言い分にはリアリティがありますが、いかんせん登場人物たちの心理描写がまったく出てこないのが残念。丁寧に深層心理を説明する必要はなくとも、せめて行間からでも何か読み取れるものがないと、登場人物がみな記号的なだけで、誰にも共感できないまま終わってしまいます。また、視点が変わるのも物語に入り込めない要因のひとつかと思われます。
 誰かひとりでも、自分が本当に描きたい人物を決めて、その人物の人となりを読者に伝えることを意識して書いてみてはどうでしょうか。そうすれば、ぐんと中身の深い作品が書けるようになるのではないかと思います。
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