第一次選考あと一歩作品

『バラの散る庭』 松嶋美青


選評

 婚約者の瑞生と死に別れたヒロインの未散は、瑞生の兄である響の支えに従って、そのまま婚約者の家に居候して設計士の仕事の手助けをしている。そんなある日、バラ園の洋館に住む紫苑という少年が彼女に近づき、恋人未満友達以上の交際が始まる。婚約者の死を受け入れられず、不安定な心を抱えて未散は悩むが、やがて周囲の助けによって心を癒やされていく。そして、最終的に彼女が未来のパートナーとして選んだのは、響だった……。
 メインプロットに関係しない無駄な登場人物が多く、複雑に絡んだシーンを理解するのに苦労してしまった。また、いくつかのシーンで、ちぐはぐなセリフがあったのも残念(紫苑と未散のデートの最中、響が途中からやってきて未散の自殺未遂を暴露するのは、あまりにも不自然。また、未散が婚約者の死を乗り越えられない理由が、職場でのパワハラが原因だったという裏の真相も納得性が低い)。そのような欠点が多くありながらも、小説としてはとても丁寧に描かれていて、設計事務所での仕事内容や、バラの栽培法などの説明にリアリティを感じられた。また、何気ない日常風景を丹念に描写していく筆致にも確かなものを感じた。推敲を重ねれば、優れた作品になると思う。
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