第一次選考あと一歩作品

『僕らの世界が生きている』 渡邊宏周


選評

 どうやら恋人に浮気されているらしい大学生の茂がひとり旅で訪れたさびれた温泉街。この温泉街の描写が、現実のような夢のような、不思議な味わいを醸し出しています。茂がひょんなことから手にした手紙にあった住所を訪ねていくと、そこは風俗嬢のサキが経営する篠原観光案内所。お客様をもてなそうと一所懸命なのだけれど、どこかずれているサキ、けなげで生命力に満ちあふれていて、魅力的な女性像を産み出したと言えるでしょう。サキに振り回されつつも、惹かれていく茂の心情もよく伝わってきます。
 ときにコミカルに、ときにシリアスに展開する起伏に富んだストーリーをおもしろく読みましたが、冒頭にはった伏線が結末にさほど活かせていません。謎やエピソードは、ドラマの構成上、読者になるほどと思わせる説得力がないと、物語に散漫な印象を与えてしまいます。しげちゃんとサキのメインストーリーが充分におもしろいのですから、もう少し絞り込んでもよかったかなと感じました。また、ところどころ文章にぎこちないところがあるのも気になりました。
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