第一次選考あと一歩作品

『午後九時のシンデレラ』 木崎咲季


選評

 やりたいことから逃げ、無気力な日々を送る大学生の麻生は、ある日、バイト先のコンビニで、午後九時になるとやってくる常連客の梨菜に3カ月の期限付きで恋人になってくれと頼まれる。梨菜が彼を誘った目的は、好きな男への思いを忘れるためだった。麻生自身、高校時代に手痛い失恋を味わっていた。3カ月の契約期間でふたりはお互いの恋の痛手を克服し、徐々に思いを近づけていく……。
 傷つくことを恐れるあまり、自分の殻に閉じこもる主人公の心情が、流れるような一人称で丁寧に綴られている。かなりの文章力である。だが、無駄な登場人物が多く、魅力的なシーンに欠けているのが残念。麻生が過去の失恋や悩みを克服する課程に重きが置かれているぶん、梨菜との疑似恋愛というシチュエーションがうまく生かされていない印象を受けた。題名に生かされた「シンデレラ」は、冒頭で麻生が梨菜に手渡されたサンダルがもとになっているはずだが、こうした重要な小道具が生かされていないのも残念な点のひとつ。
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