第一次選考通過作品詳細

『ブルーの金魚』 鈴木利一

 大学入学を控えた春休み。凛は、姉の本棚から1冊のノートをみつけた。彼女の2歳年上の姉は13歳のとき、交通事故で亡くなっている。ノートをめくってみると、そこには姉のではない文字で魔法使いの物語が綴られていた。


評価・感想

 「お姉ちゃんの仏壇」という、読み手が「どうしたんだろう?」と思わせる冒頭。まずは、この最初の一行が「うまい」と思いました。家族を亡くした者が抱く罪悪感や、それと同時に心に広がる思い出を、自然に読めるよう、とても丁寧に描いています。文章力もあり、人や物に対する優しい視点に好感も持てます。ノートに綴られたもうひとつの物語である、エルフの話も風景や状況の描写が達者で、見たこともない世界にうまく読み手を引き込んでいきます。伏線もちゃんと敷かれ、構成がしっかり練られています。テーマやメッセージもきちんとしてあり、小説の持つ細々とした要素に対して目配りされていて、自分ならではの小説を書くことへの意気込みも感じられます。欲を言えば、これだけ書けるのだから、もっと現実に即したラブストーリーを書いて欲しかった。もっともっと書けると思うので、今後に大いに期待したいです。

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