第一次選考通過作品詳細

『花喰い』 鷹野晶

 和菓子屋でアルバイトをしている椿は、菓子を届けにいった邸宅で、不思議な男に出会う。和服を着こなし、時代錯誤な言葉をしゃべる男との出会いによって、彼女は、恋に臆病になっている自分自身に向き合うことに。その男=桂木は、じつは明治生まれ。あることをきっかけに“魂喰い”となり不老の身体を得た。そして、かつて、椿の母親と関係をもった男だった……。永遠の命をもてあましながら時を越えてさまよう桂木は、椿をはじめ、夫の死を悔いている老女の前にも気まぐれに現れる。彼女らは、桂木との出会いで新たな道を見出していく。一方、桂木も……。


評価・感想

 不可思議な存在である男を通し、人を思うことの刹那性と永遠性を描き出した作品。作品にも登場する上質な和菓子を連想させる上品な薫りがあることを、まず評価したいと思います。桂木という謎めいた存在を「狂言回し」にし、一見、無関係の複数の人々の物語を描き、それをラストに向けて束ねていく手法は、既存作にも見られますが、難易度の高い手法に挑戦し、ひとつの物語として完成させている点も、評価できます。桂木の人物造詣を首尾一貫させるというのは、一定以上の筆力、構成力が求められると思います。その他の登場人物の書き分けは若干弱いため、インパクトには欠けるという欠点もありますが、個人的には、主張しすぎていないためふんわりとした読後感が残り、好感を持ちました。ドギツい作品、テーマが明確でわかりやすい作品ばかりではなく、こういうタッチのものへのニーズもあるのではないかと思い、通過作品に推します。

一覧に戻る