第一次選考通過作品詳細
『二年五組のコイビト』 風音(かのん)
吹奏楽部に所属する高2男子の未来(みく)は、トランペットをコイビトのように大切にしている。未来はなんとなく付き合っていた彼女に「私と(トランペット)どっち大切なの」と訊かれて答えに窮し、勢いで別れてしまった。心配した親友が未来を慕っているという後輩の巨乳美少女・沙耶を紹介すると、未来は前の彼女と同じように、なんとなく付き合い始める。これまでの彼女には未来がリードされるような具合だったが、沙耶には守ってあげたいところがあり、さらには思いがけず大胆なところもあって、未来は次第に彼女に惹かれ始める。だが一方で未来は、自分のなかに生まれたもうひとつの気持ちに戸惑っていた。それは体調を崩した自分を優しく送り、そして誰もいない教室で寂しくたたずんでいた、いつも香水のいい匂いのする新任の教師・城戸に甘え、守られたいというものだった……。
評価・感想
男子高校生の、巨乳後輩女子と美青年英語教師とのあいだで揺れる微妙な恋心を、吹奏楽部での活動や数学オリンピックへの参加、家族との進路をめぐるやりとりなどを絡めつつ、みずみずしく描いた青春小説です。こまごまとしたエピソードを重ねた高校生活がとても楽しそう、というのがいちばんの評価ポイント。物事に流されがちな少年が、城戸への想いを募らせるのと同時に、少しずつやりたいことを見つけて成長していく過程が丁寧に描かれていて評価できます。この未来の成長を縦軸に、城戸という人間の謎を横軸に上手く構成しているのではないでしょうか。意外と城戸の抱える謎がありがちだったので残念でしたが、王道といえば王道。とくに卒業の日、クラスの生徒たちに城戸がかける「未来」にかけた言葉などは、城戸の謎が明かされた後だけに、より感動的です。ただ、沙耶の扱いが後半、城戸への恋心の盛り上がりを繊細に描けているぶん、おざなりな感じがして、もったいないと思いました。
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