第一次選考通過作品詳細

『月夜の恋に、捧げる』 森しずく

 加嶋家に嫁いだ美冬は、夫である辰巳とのセックスや姑からの小言、舅の高圧的な態度にうんざりしながらも、懸命に毎日を過ごしていた。かつて貧しさからすべてを失った過去を持つ美冬にとって、生きていくためには仕方のないことだった。そんな折、舅から、地下で生活をしているという辰巳の兄、拓治の世話をするよう言い渡される。目が見えず、足が動かない拓治の世話をするうち、美冬はその日々のなかに優しさとぬくもりを感じるようになるが……。


評価・感想

 地下室に住む動けない人間の世話をするという設定が江戸川乱歩の『芋虫』を思わせ、徹底された全体に漂う不気味さが特徴的でした。拓治にお願いされ、美冬が「眼」や「脚」を調達するくだりなども幻想的で、確固とした世界観を持つ小説です。文章力も高く、リーダビリティも評価できますが、いかんせん現代的な小説ではないので、いまの時代にどう受け止められるかという点が今後の評価の論点となってくるかと思われます。

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