第一次選考通過作品詳細
『それがきみならいいのに 』 大島 怜也
「私」は、家庭のゴタゴタから逃げ、同じ団地に住んでいた5歳年下の「きみ」のもとを訪ねて気ばらしをするうち、仲よくなる。その後、「私」が20歳のと きに再会するが、「きみ」は引きこもりになっていた。引きこもりの「きみ」と「私」の間に恋愛感情が生まれたころ、「私」の元カレがやってきて仲を引き裂 いてしまう。その後、「きみ」は交通事故で死ぬが、「私」はそれが自分のせいではないかと悩み続ける。そんな「私」のもとに、生前の「きみ」が送ったタイ ムカプセルメールが届いて「私」は救われる。
選評
主人公の「わたし」が、6歳年下の幼なじみの「きみ」に語りかける二人称の文体は、途中、あやうく破綻しかけるも見事に持ち直し、圧倒的なリズムで読者を 作品の中に引っ張り込んでいきます。実力派女優の見応えのあるひとり芝居を見たような読後感。ものすごい筆力だと思います。セリフや地の文にもハッとする 新鮮な描写や、生きづらさを背負った人物たちの感情や状況がみずみずしく語られていました。が、その一方で、とても大事な場面でギルバート・オサリバンの 「アローン・アゲイン」や中島みゆきの「瞬きもせず」の歌詞が挿入されるのは惜しい気がしました。先人の作品を自作に引用する場合、オリジナリティが犠牲 になってしまうということを覚悟しなくてはなりません。
→ 一覧に戻る