第一次選考通過作品詳細

『風の歌が聴こえたら 』 中田 峻裕

水商売を営む母親の再婚を機に、東京で暮らし始めた隼人。ある日酔っぱらって倒れていた隣人、女子大生のあすかと意気投合し付き合い始める。しかし、有名 大学を出て就職したあすかと高校中退でフリーターを続ける主人公との間には、社会的格差が重くのしかかり、いつの間にか埋められない溝ができていた。あす かと別れ、自暴自棄になる隼人。廃人のように暮らしていたとき、幼いころの記憶がよみがえってきた。自分はあすかと遠い昔に出会っていたのだ。そんな折、 母親が急死したという知らせが入る。故郷に帰った隼人は、幼いころのあすかとの思い出の地を訪ねてみた。そこにはあすかからのメッセージが残されていた。


選評

格差社会を不器用ながらも真摯に生き抜こうとする隼人。同じような悩みを持ちやすい現代社会において、彼の成長に共感し励まされる人は多いのではないで しょうか。この作品には、ミュージシャン志望のヒモ男、映画監督志望のフリーターなど、いわゆる「レールに乗れなかった人々」がたくさん出てきます。こう いう人々の魅力や悩み、揺れる心を描けることは、今後、作家として活躍するうえで、大きな財産になると思います。欲を言えば、もっと主人公のコンプレック スをさらけ出して欲しかったです。主人公をいじめて欲しかった。ダメな自分を受け入れることでへこませて欲しかった。そこにさらなる共感と感動があったの ではないかと思います。

一覧に戻る