第一次選考通過作品詳細

『飄雪 』 吉田 圭

28歳の曽我有子は、個人病院の受付をしていたが、恋人との別れなどがきっかけで日本語教師の資格を取り、中国の大連に。かの地で吹き荒れる反日運動の波に戸惑うなか、ある日系企業の現地法人での日本語教師の職を得る。そこで彼女は、管理職を務める40歳すぎの男・田口と出会い、あるトラブルをきっかけに深い関係に。田口との日々に喜びを見出す有子だが、日本に残してきた家族への田口への複雑な思いを知り、恋の行方に思い悩む。そんな折、田口の勤め先で反日感情を背景とした大規模な労働争議が。そして、有子も、学生運動に巻き込まれる。事件のあと、大連を離れる決心をした有子に、田口は、ある申し出をする。有子の出した結論は……。


選評

主人公の有子は、突出した個性を持っているわけではなく、いわゆる「良識」のある、生真面目な女性(おそらく、作者もそうなのでしょうね)。そんな女性が中国の混沌に戸惑い、家庭をもつ男性(こちらも、良識ある社会人)に魅かれていく自分の感情に戸惑う様子が、これまた生真面目に描かれています。個人的には、その「面白みのなさ」に、むしろ、好感と興味を持ちました。日本における「政治の季節」が終わった時代に青春を送り、個人的にも感情のうねりをあまり体験せず日々を送ってきた男女が、環境・恋両面における「嵐」に巻き込まれたら、どうするのか……主人公たちの去就に自分を重ね合わせて読むことができた作品です。

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