第一次選考通過作品詳細
『ウォー・クライ』 藤崎 真生
自分の通う学校の数学教師・高木とつきあっている高校二年生のリカを語り手に、物静かな同級生・仮谷、BLコミックに夢中の真希、の三人を中心に物語は語られる。仮谷は携帯電話に似せたスタンガンを手放せず、真希は処女なのに妊娠を恐れてピルを手放せない。リカもまた高木と気持ちがすれ違い始めている。
選評
主人公たちの行動の一コマ一コマが淡々と描かれるが、「死はいつも、そこにあるリアルな希望」と考えるリカの冷めた視点を通しているので、文章は中だるみせず、最後までほどよい緊張感を持続している。ストーリーだけ抜き出すとセンチメンタルな青春ドラマのようだが、余計な感情移入をそぎ落としたシャープな語り口のお陰で、漠然とした不安に対峙する主人公たちの行動が清々しく見える。会話にもムダがなく小気味よい。有吉とつきあって「現実もいいなぁって思うようになった」と言う真希が無惨な死を遂げるエピソードも、ややもすれば湿っぽくなりがちな話なのに、むしろ運命の理不尽さへの澄んだ怒りが際立つ。
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