第一次選考通過作品詳細
『ラジオネーム 』 荒川 輪歩
舞台は、1970年代の東京・新大久保周辺。中学3年生の竜男の楽しみは、ラジオの音楽リクエスト番組を聴くこと。北海道から転校してきた鈴子に一目ぼれした彼は、番組に恋のメッセージを送り続ける。一方、鈴子には、複雑な家庭事情があった。鈴子と父が、北海道・美唄の炭鉱町を出て上京したのは、父がある女に惚れ、その女・歌子を追いかけてきたのだ。ふとしたきっかけから、鈴子の父と今は歌舞伎町で小さな飲み屋を営む歌子に出会った竜男は、二人がまとう独特の空気に衝撃を受ける。同時に、鈴子の歌子に対する憎しみを知り、何もできない自分を感じ、途方にくれるのだった。やがて、鈴子の父と歌子の間にある事件が。それは、竜男と鈴子の別れにつながっていく。別れの日、鈴子を見送る竜男のラジオから聞こえてきたのは……。
選評
高度成長期の日本がもっている猥雑で矛盾だらけではあるけれど、エネルギッシュな空気。そんな空気を身体いっぱいに受け成長していく少年の日常と恋が、ディーテールの積み重ねによって描きこまれており、興味深く読ませていただきました。人物描写については、主人公、その友人、鈴子の父など、男性の描写が巧く、活き活きとしています。主人公の恋愛自体は、たわいのないものですが、そのたわいのない恋に青くなったり赤くなったりしている様子がほほえましく、共感が持てました。男性の描写の巧さに比較すると、鈴子をはじめとし、女性描写は多少陳腐。女性読者としては少し残念ですが、それも主人公の目線を通してのものと思えば、許せる気がします。
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