第一次選考通過作品詳細

『青空と雨の向こう側』 中川 つちか

どしゃぶりの雨の中、シャッターの閉まった酒屋の軒下にある傘立ての中の古ぼけた黒い傘を拝借しようか迷いに迷った結果、手を伸ばした瞬間に「それ、私の 傘なんだけど……」と、制服姿の彼女は現れた。冴えない大学生の僕に美しい女子高生の彼女は、条件付きで「彼女になってあげる」と言い放つ。黒い傘と透明 のビニール傘に執着して、青い空が嫌いだという彼女。僕を振り回す奇抜な行動ひとつひとつには、それぞれにちゃんとした理由があり、彼女は深い悲しみを抱 えていたのだった……。


選評

彼女の美しさ、複雑な心境が丁寧に描かれていました。とくに、どしゃぶりの雨の中の出会いのシーンはとても印象的。そして、ダーリンの卒業した高校の屋上 に侵入するときも、彼女が何故わざわざダンボールを持参しているのか、彼女の突飛な行動の理由が、のちのち納得させられます。ひとつひとつの場面、彼女が 強くこだわり続ける“古ぼけた黒い傘とビニール傘”だけでなく、作品を通して、小物ひとつにもこだわりが感じられました。

一覧に戻る