最終審査講評
柴門 ふみ (さいもん・ふみ)
未完成ながらもエネルギー溢れる筆力で、読み手をぐいぐい引っ張ってゆく力作が残った最終選考でした。
大賞となった『埋もれる』は、実際に韓国滞在を経験した作者ならではの、リアリティが感じられる力のある作品です。主人公が恋する韓国男性テソクはとても魅力的ですし、何より官能描写が素晴らしい。おそらく「ラブストーリー大賞」始まって以来の、本格的濃厚ベッドシーンではないでしょうか。大人の鑑賞にも充分堪えうる描写力にしびれました。
『私の結婚に関する予言38』は、ラブありアクションあり社会問題ありで、てんこ盛りの印象ですが、それでも圧倒的に面白い! ということで、今後が楽しみな作者です。
『化粧坂』は、時代考証に難があるものの、登場人物が生き生きと描かれ、エンターテイメント性に富み、読み応えがありました。作者は、物語作家として、いずれ花開くのではないでしょうか。
石田 衣良 (いしだ・いら)
最終選考に残った5作品は、どれも力のこもったもので、とても読みごたえがあった。作家になりたいという人の数は確実に増えていて、力量もあがっているようだ。出版界にとっても、いい傾向だと思う。選考会ではどの作品を大賞にするかで、うれしい悲鳴があがった。これはなかなかめずらしいことです
『時間管理人』 スムーズに読ませる文章力は評価するが、管理人の正体が判明して以降は、やはりつくりすぎの感があった。倫子の痛い恋愛についてはよく書けているので、そのあたりをリアルに描いてはどうだろうか。
『parachute パラシュート』 オーストラリアで恋に落ちる前半が弱い。これが現実の恋だといわれたらそれまでだが、それでは小説にならないと思う。書くこと、人を楽しませることを、もう一度考え直してみては。
『化粧坂』 ぼくは歴史に暗いので、時代考証上はかなりの間違いがあるのだろう。だが、それでも作者の力量は疑い得ない。最後まで見事に読ませ切った熱を買う。欧米の外来語を削り、もっと化粧師・満月を中心に描いたほうが、全体が締まると思う。審査員特別賞、おめでとう。文句はありません。
『私の結婚に関する預言38』 コミカルで明るく、つねにまえむき、それでいてイケメンには極端に弱いヒロインの設定が効いている。介護問題を背景にしたのも、作品に深みをだした。立ち止まらずに、この勢いで前進してください。
『埋もれる』 携帯小説のような軽い物語が受ける時代に、この正直で誠実な恋愛小説がどう迎えられるか。それがぼくには興味がある。この作品が力量的には頭ひとつ抜けているのは、最終選考に臨んだ全員が認めていた。見事な大賞作品を得て、選考委員としてもうれしい。
デビューした方々は、これからがスタートです。今ある材料のすべてを、この数年で出し切るつもりで、今日から全力疾走してください。
白井 恵美子 (しらい・えみこ)
どの作品を読んでも、「恋愛をしたい!」「好きな人に今すぐ会いたい!」と読んだ誰もが思うようなものばかりだったと思います。恋愛パワーをもらえる作品が揃ったのではないでしょうか。
『埋もれる』は違和感の無い官能シーンが印象的。表現も綺麗で繊細だった。主人公の女性を取り巻く二人の男性の対比も良い。外国が舞台だったが状況、情景描写など韓国ならではの様子が上手く描けており、感情移入でき対岸の火事のように感じなかった。
『私の結婚に関する予言38』は中身も長さもボリューム満点だった。しかし、ドラマを見ているようなストーリー展開で一気読みだった。エンタメ色が強いが、介護の仕事の描写にはリアリティがあり、生と死を考えさせる部分もあった。働く女性にとって共感できる部分が多いと思う。何よりキャラクターが立っていて、応援したくなる主人公の描き方は上手いと思う。
『化粧坂』は応募作というのを忘れて読み入ってしまった。
独特な言葉遣いや、白粉を作るときの艶やかで匂い立つような文章は、今でも甦ってくるほど素敵だった。
この作家の現代小説も読んでみたいと思わせる作品だった。
上村 祐子 (うえむら・ゆうこ)
第3回目のラブストーリー大賞は、下読みで眠れない日が二日ありました。
一日目は、『私の結婚に関する預言「38」』。ジェットコースターストーリーで、もうページを捲る手が止まらなかったです。魅力的なヒロインととてつもなく格好いい男たちに興奮しました。ただのエンタメではなくて介護問題という社会問題についてもきちんと書かれていました。
二日目は『埋もれる』です。これも読ませる!
リアルな韓国がここまで書かれたラブストーリーは今までにないのでは。それと大変すばらしかったのはラブシーンです。選考会でも大変盛り上がりました!『埋もれる』はひとりの女性の成長が描かれているし、まさに恋愛をしたくなる小説でした。
この2本で悩みましたが、『埋もれる』の深みのある小説を大賞に、エンターテインメント特別賞に『私の結婚に関する預言「38」』となりました。
『化粧坂』も読み応えのある時代小説で興奮しました。
今回で三回目の選考になりますが5本とも昨年よりレベルが高いものばかりでとてもやりがいのある選考になりました。著者も全員女性でしたし、やはり日本の「女子力」は恐ろしくパワーがあると実感しました。