第一次選考通過作品詳細

『山疼(うず)き』 佐藤 竜一郎

北燦日報記者の沢本は同期入社の一風変わった男・桜川と新人研修の夜、性的な秘事を共有する。そして、そのことは沢本の心に深い傷となって残る。桜川は美術記者としてめきめき頭角を現すが、彼の背後には、画家である母親や北燦日報社長をはじめとした複雑な人間関係が渦巻いている。あるスキャンダルを理由に美術担当をはずされて支局に異動になった桜川は、支局近くの火山・天馬ヶ岳で行方不明になる。彼が不在となった支局に転勤してきた沢本は桜川の行方を求め捜索に参加し、事件の真相を探る。そして貴島火穂という女性画家と知り合い、強く惹かれていく。彼女こそ桜川の失踪事件の鍵を握る人物だった……。


選評

新聞記者失踪を題材にした、苦味を含んだラブストーリー。新聞社の地方支局という、豊かな自然や山に囲まれた土地で繰り広げられる、どろどろした人間の生の営み。喜びや悲しみ、愛憎、欲望、駆け引き、陰謀、嫉妬など、都会よりも濃い人間関係を映し出していて、面白く、一気に読んだ。大人のためのラブストーリーとして読み応え十分。記者・桜川の失踪が最後まで謎めいているのでミステリーとしても楽しめるし、美術界の裏側にある人間模様の複雑さも覗けて興味深い作品。

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