第一次選考通過作品詳細

『ママの恋人』 秋元史江

千秋は、高校の入学式で同じ新入生の男の子、橘に一目惚れした。橘は、千秋の親友、加奈子の彼氏の親友だった。加奈子のお膳立てで、千秋は橘とつきあい始める。一方、千秋の母親、麻樹は20歳のときに千秋を産んだ未婚の母だ。それまで両親と同居して千秋の面倒を見てもらっていたが、千秋の進学を機に母子2人で生活を始めた。千秋の恋を間近に見ている麻樹は、自分が年をとったことをいやでも自覚させられる。自分ももう一度恋したいと思っていた大晦日の夜、1人で入ったバーで麻樹はバイトの雄二とホテルへ行き、つきあい始める。千秋と橘の恋も、麻樹と雄二の関係も、各々順調だった。だが、ある日のこと、学校から帰宅した千秋は、麻樹と男のキスシーンを見てしまう。


選評

千秋の、好きになった男の子といると顔もあげられないほどの恥ずかしさやドキドキ、2人でいるときの会話が乏しいことへの不安。初めての交際ならではの戸惑いやバランスの悪い気持ちを丹念に描いている。千秋の初々しさは読んでいて羨ましくなるほどで、だからこそ、千秋の恋に女として焦る麻樹の気持ちもよく分かる。つまりこれは、千秋は初めて男の子とつきあうことで、麻樹は自分が若くないと自覚することで、各々もがきながら成長していく物語。同時に、母子2人が、愛情を感じながらもぎくしゃくとして違和感を感じ、それでもいい関係を築こうとする親子の物語でもあるのだ。3つの物語をうまく交差させながら1つの物語として束ねていく、その筆力と構成力は群を抜いている。千秋の祖父母や親友の加奈子、恋人の橘という脇役は、みんなきちんとしていて誠実で優しく、好感がもてる。それがイヤミにならないのは、物語全体を通して、著者自身の、人に対する優しい眼差しときちんとした姿勢が感じられるせいだろう。

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