第一次選考通過作品詳細
『parachute(パラシュート)』 中居 真麻
京都に住む絢子(あやこ)は、大学生だった20歳のとき、オーストラリアのキャンベルに語学留学した。現地に着いて早々、絢子は学生寮の隣室の住人で3歳年上のオーストラリア人Jに恋をする。絢子にとっては、キスもセックスも彼とが初めてだった。2人は恋とセックスに拘泥していき、寮内で同棲した。半年間の留学が終わり絢子は帰国するが、Jと連絡を取り合い、数ヶ月後に来日したJと同棲を始める。しかし、Jの仕事がみつからず、絢子は2人の生活のためにバイトに明け暮れる。やがて、Jが日本で生活することの困難さや2人の気持ちのずれが目立ち始める。ケンカが絶えない日々が続いた後に、Jはオーストラリアに帰国。その後、絢子とやり直そうと再び来日するが、絢子の心はJから遠ざかっていった。
選評
著者は、第1回目のエントリーで最終選考にノミネート、第2回目の作品が2次選考通過している。これは3度目の挑戦作品。今までも評価されているように、まずは文章がうまい。始まりからスルスルと滑るように、物語へと入っていける。文章の中での会話の使い方、置き方、その間に差し挟んだ英語も非常に自然で効果的で、よく考えられている。物語の内容について言えば、自分が「恋に落ちた」と気づいた瞬間が、驚くほどリアルに表現されている。同様に、相手に対するささいな違和感、恋の終わりの予感が確信に変わっていく様子などの描写も見事。最も唸ったのは、絢子が別れを切り出した後の泥沼劇だ。拘泥した恋愛の終わりは、一度会って話せば別れられるというほど単純ではない。別れると決めてから本当の別れが来るまでの、気が遠くなるほどの紆余曲折。それをここまで真に迫って描けるのはすごい。いずれそのうち、プロとしてやっていける人だろうと思う。ただ1つ、この物語は今から30年前という設定にもかかわらず、登場人物がパソコンや携帯を使っているなど、今と変わらない生活をしている点だ。冒頭を書き直して処理できる問題ではあるが、ちょっと見逃せないミスだろう。
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