第一次選考通過作品詳細
『バニラ&ワイルドダークチェリーパイ』 百成 ヒロオ
地方の田舎町に住む高校2年生の斗和子(とわこ)は、同級生の彼氏・銀ちゃんに自分の過去を告白しようと決意する。そうしなければ、キス以上に関係に進めない気がしたから。それは、斗和子の“初めての男の子”にまつわる物語だった。かつて、斗和子の家の離れに閉じ込められていた十三歳の少年、笙太。家族にも隠れた、彼との密やかな交流は、斗和子が歳を重ねるにつれ、性的なものに変わってゆく。それでも、笙太が斗和子に直接触れることはなかった。斗和子に好きな男の子が、外にできるまでは。斗和子が外の男の子と一線を越えようとしたとき、笙太の過去もまた明らかになる。そのとき斗和子が取った選択とは?
選評
R18文学賞をあげたいくらいの、瑞々しい心のありようと官能の関係が見事。斗和子と笙太の遊びの実体が明らかになったときの、「単純なエッチじゃないんだあ!」という驚きと、笙太の過去が、初エッチへの大胆な伏線になっているところに拍手。阿部定だってやらなかったよ、そこまでは。たぶん。 図子慧や、最近だと豊島ミホのデビュー作を連想した。 あの素晴らしき変態告白を受けても斗和子を受け入れた銀ちゃんは、度量が広いというより、話を聞いてなかったんじゃ……とちょっと心配になったけれど、逆に燃えたのかもしれない。銀ちゃん、かっこいい! あえて苦言を呈するならば、銀ちゃんはじめ、笙太や市村のそのかっこよさを、もっと描いてほしかった。おそらく彼らのかっこよさと斗和子(とそれに共感する読者)の切なさは比例関係にあり、その切なさは、官能に相乗効果を与えると思うので。
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