第一次選考通過作品詳細

『東京プリン』 三村真喜子

地方の町に住むみちるは、入社3年目のOL。趣味はお菓子作りで、本人も自覚する平凡な女の子だった。ところがある日、東京で働く幼なじみのサキちゃんが、出資者がいるので、東京でプリン専門店をやらないかと持ちかけてくる。みちるは悩んだ末に、上京してプリン専門店を立ち上げることにした。東京には、学生時代からつきあって7年になる優一もいる。1年前から遠距離恋愛しているので、みちるが東京に住めばもっと頻繁に会える。店も持てて恋愛も安泰、万事文句なし、となるはずだったが……。


選評

お菓子作りの面白さと、プリンの魅力を力説するというチャーミングな冒頭に、まずはググッとひきつけられた。女の子が店を開くというと少女漫画みたいだが、オーナーとの話し合いや開店の準備、引っ越しなど現実的で細かい作業を、物語にのせながら丁寧に描いているから、読みながら追体験できて、こっちまでワクワクしてきたほどだ。店を立ち上げる逞しさや町内の人達とうまくつきあう明るさをもちながら、恋人に対しては我慢に我慢を重ねるほど思いつめやすく一途。そんなみちるのキャラクターも魅力的だ。美容院のおばあさん、バツイチで小料理屋を営む女性など、隣近所の顔ぶれも楽しい。ストーリー自体はハデでもないのに、オリジナル感があり、全体がキラキラ輝いている。それはたとえば、恋人とダメになるかもしれないという不安を前にして、みちるの手の中にあるのは「微かな希望」と「幸福だった頃の思い出だけ」と思う、こんなオリジナルで的を射た表現が付箋を貼りたくなるほど、多くちりばめられているからだろう。

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