第一次選考通過作品詳細

『里中禅右衛門と倫』 錦糸帖始

土佐の初代藩主・山内一豊の死後、窮乏する藩の財政を立て直した若き家老、里中禅右衛門。しかし、そのあまりに過酷な施策に民衆が反発、失脚を余儀なくされる。その後、謀反の汚名をきせられた禅右衛門一家は人知れぬ山里に幽閉される。この話は4歳から44歳まで、家族以外誰にも会うことなく幽閉されていた禅右衛門の娘、倫の恋物語である。


選評

家族以外の誰とも会うことなく、長い間、幽閉されていた女性。彼女が恋焦がれていたのは、あった事もない兄の文通相手。人はどんなに過酷な境遇であっても、隙間から水が流れるように、恋する相手をどこかで見つけるものなんですね。この物語は、恋をすることが人間の本能であり、生命の源になっていることを教えてくれます。江戸時代を舞台にした歴史小説でありながら、幽閉という尋常ではない境遇が、他人と接する機会の減った現代の恋愛とどこか通じるものがあり、若い人にも共感を得られるのではないかと考えました。また、主役、脇役それぞれの人物描写に深みがあり、ストーリーにいい肉付けがされている点も高く評価しました。これも、77歳の作者の豊富な人生経験からくるものでしょうか。なにより、77歳という高齢でこれだけの作品を書かれる活力に敬意を表したいと思います。

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