第一次選考通過作品詳細

恋路線』 村岡 直樹

バスの運転手を務める市原雄介は、田んぼアートのプロデュースを仕事とする遠藤ひかりに思いを寄せている。ひかりには白井健吾という婚約者がおり、宝石店を営む白井は市原の学生時代の先輩である。 日々の仕事の中で市原は、女子高生が援助交際をしようとしているのを止めたり、高校時代にやむなく罪をおかした友人の出所を見届けたりする。また、老人ホームに通う千葉安江と知りあい、夫の真一郎から宝石を託される。白井の店から60年前に盗まれていたその宝石は、白井がひかりへの結婚指輪として贈りたいと、市原に捜索を頼んでいたものだった。 ひかりは白井と仕事のことなどが理由で別れる。それまでの出来事に励まされてひかりに思いを告白していた市原は、ひかりと付き合うことになる。


選評

大阪府のとある街で路線バスの運転手を務める、普通の男の普通の恋の物語である。地に足のついた描写が続くなかで、思いを寄せている人を手助けしたり、日々のバス運行で出会った人の人生にすこしずつ関わっていったりすることが、変わらぬはずの日常に変化を与え、やがて確実に二人の関係を変えていくストーリーは好感が持てた。目新しさは全くと言いほど見当たらないが、「陳腐」ではなく、正々堂々とした温かさのある物語である。「中身を替えて始まりと終わりを繰り返す」路線バスが物語の舞台として正確に選ばれている。やや唐突な印象を受ける宝石探しのエピソードも、むしろつかの間の「非日常」の夢を見せてくれるエピソードとして楽しめた。かつての自分たちと同じように悩み、自暴自棄の手段をとろうとする高校生たちを案じて彼らの力になろうとするエピソードや、友人の出所を出迎え、その後も力になろうとするエピソードの方が、主人公の真っ当さを確かに強く力づけるが。

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