第一次選考通過作品詳細
『埋もれる』 谷口 みな
幼少期、父親の相次ぐ転勤によってどこの土地にも安住できず、刹那的な生き方しかできない主人公の由希は、韓国のソウルでアルバイトをしながら韓国語を学んでいる。恋人の「パクさん」は大企業に勤めていて、経済的にも精神的にも安らぎを与えてくれるが、由希は彼との生活に一歩を踏み出せない。そんなある日、由希は乗り合いタクシーで作家志願の無骨な男、テソクと出会う。テソクとのセックスによって与えられる激しい快感に、彼女はようやくしがみつくべきものを見つけるが、しかし、それさえも決して確かなものではなかった――。
選評
ずっしりとした重量感のある小説です。永遠なるものを求める男女の切実な思いが伝わってきました。「物事は埋もれてみなければわからない」という結論に至る由希の闘い、苦悩、絶望が丁寧な筆致で綴られています。テソクからうつされた「水虫」の扱い方など、ちょっとしたモチーフも「埋もれる」というテーマを裏付ける仕掛けになっていて、絶妙。韓流ドラマを吹き飛ばすような暗いリアリズムに圧倒されました。このようなエンターテインメントの極北にあるシリアスな作品が、今後の選考でどのように受け止められるか、楽しみです。
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