第三次選考通過作品詳細
『スイッチ』 佐藤 さくら
主人公苫子はフリーターで、処女。他人と上手くコミュニケーションをとることができず、簡単なバイトさえもクビになる始末。嫌なことがあるたびに、自分の首の後ろを押す。彼女のイメージの中では、そこに人間を消すことができるスイッチがあって、そこを押せば自分は消えていなくなることができるのだ。
そんな彼女がバイトを変えたことで、いろいろな人に出会う。みなどこかズレていて、アンバランスな人ばかり。最初は何となく距離を置いていた苫子と彼らだが、徐々に近づき、お互いに影響しあう。といっても、劇的な何かが起こるわけではなく、あくまでも消極的に、静かに、ジンワリと変化はやってくる。物語の最後、苫子は処女ではなくなり、サル男という好きな男もできた。周りの人とも自分から連絡を取り、すべてが上手くいかなくても、繋がりを自分から保とうとする。
変化はそれだけ。だが、苫子にとっての世界は大きく変わりはじめていた。
書店員評
冒頭の人づきあいが苦手という主人公の独白が私小説的で、よくあるナルシス小説なのかなと思いましたが、途中からどんどん面白くなっていきました。好きです。イチオシの作品です。
(紀伊國屋書店/白井恵美子さん)
「童貞」ブームの昨今、「処女」という主人公の設定には新しさを感じました。そのダメっぷりは、リアリティがあって、誰もが少しずつ抱え持っているコンプレックスに通じるようで、共感性も高いです。「セックスしませんか?」というセリフには感動!
(ブックファースト/八木岡由香さん)
主人公は、一体、誰と「処女脱出」を果たすのか? という興味でぐいぐい読み手を引っ張っていく手腕に脱帽。でも、それだけがゴールなのではなく、あくまで主人公の精神的な成長に重みを置いているところにさわやかさを感じました。「キャミに古着のミリタリージャケットをはおり、デニムのリメイクスカートにブーツを履いて」といったファッション描写の丁寧な気配りにも好感が持てます。
(丸善/上村祐子さん)